IPO労務DDに関するコラム

IPO労務DDに関するコラム
IPO(上場)に向けて監査法人や主幹事証券会社から「労務DD(労務デューデリジェンス)を受けるように」と言われたけど、どこに頼めばよいかわからない。
そももそも労務DD(労務デューデリジェンス)って何から手をつければよいかわからない。
こんな疑問やお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
今回は、IPOを目指す会社の経営者や労務管理担当者に向けて「IPOで必須とされている労務DD(労務デューデリジェンス)とは何か?」わかりやすく解説します。
エスティワークスが培ってきたIPO労務DDのノウハウと最新の研究成果をぜひご活用いただければ幸いです。ご相談レベルで構いませんので、まずはお気軽にお問合せください↓
労務DD(労務デューデリジェンス)とは、企業が資金調達やM&A(合併・買収)などの重要なビジネス上の決断を行う前や、IPO(上場)審査に進み、無事IPOを達成することを目的として、その企業の労務管理が適切に行われているかを詳細に調査することを目的としています。 労務DD(労務デューデリジェンス)は、労働法令の遵守状況、人事・労務管理の適正性、労働条件など、企業の労務状況全体を対象に行われます。
企業がIPO(上場)を行う際には、主幹事証券会社や東京証券取引所から厳しい審査を受けます。その過程で、労務DD(労務デューデリジェンス)の結果が重要な評価基準となります。適切な労務管理が行われていない企業は、法令違反のリスクや労働紛争の可能性があり、投資家の投資リスクとなり得るためです。
36協定違反や未払い賃金など、目につきやすいものだけでなく、最近では恒常的な長時間労働やサービス残業など健康管理における安全衛生面の管理体制も大変重視されております。
IPO(上場)を成功させるためには、労務DD(労務デューデリジェンス)による調査とその結果への適切な対応が不可欠なのです。
IPO(上場)のスケジュールでは一般的に申請期をn期と呼び、n期から遡って直前期をn-1期、直前々期をn-2期、その前をn-3期以前としてカウントダウンしながら準備を進めていきます。
IPO(上場)における労務DD(労務デューデリジェンス)については遅くともn-2期の期首から取り組むことが多いように思います。これは監査法人が入るのが遅くともn-3期であり、そのタイミングでできるだけ早期に「未払い残業代の精算」をするように指摘されるからです。
また、労務的な観点からもn-2期の期首は「未払い残業代が発生しない仕組みづくりをしておかなければならない」タイミングでもあるため、その前に外部の専門家による労務DD(労務デューデリジェンス)に着手しておくべきだと考えます。
特にn-2期以降は主幹事証券会社を決めるタイミングでもあり、労務的にはここでより厳格な指摘を受けるため、労務管理体制の整備を加速する会社が多い印象です。
また、n-1期や申請期では労基署の臨検や、個別労働紛争などの労務トラブルに関する迅速な対応と解決が必要となります。ここで審査サイドである主幹事証券会社の審査担当や、取引所の審査担当に対し「この会社には上場した後も、労務問題を迅速に解決する能力があること」を認識してもらうことは極めて重要であると考えます。
タイミング | やるべきこと |
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n-3期 | 監査法人によるショートレビュー(未払い残業代の早期精算を指摘される。) |
n-2期 | 内部統制・管理体制の整備 労務DD(労務デューデリジェンス)の実施 未払い残業代の過去勤務債務の精算(退職者含む) 未払い残業代が発生しない仕組みづくり 主幹事証券会社の選定 |
n-1期 | n-2期に作り上げた仕組みの運用 主幹事証券会社の質問対応 トラブルシューティング |
申請期 | JPX(取引所審査対応) トラブルシューティング |
M&A(企業の合併や買収)もまた、労務DDが大事な役割を果たす局面です。企業が他社または他社の事業を買収する際、その企業の財務状況だけでなく、従業員の雇用に関するレガシーコスト(未払い賃金などの簿外債務)や、現存する労務リスクを把握するために労務DD(労務デューデリジェンス)を行う必要があります。
買収先の現在の労働環境はどうなっているか?労使関係、労働契約の内容、給与体系、労働時間の管理方法、過去の労働基準監督署の指摘事項、労働組合との関係や個別紛争の実績など、労務管理に関する様々な要素を詳細に調査します。
なぜなら、M&Aのほとんどは、買収元が意図せずとも買収先が保有している簿外債務をそのまま承継してしまうからです。この認識は非常に重要なポイントとなります。
このため、労務DDでは、そもそもこの会社(又は事業)を買収しても大丈夫なのか?、買収価格は妥当なのか?ということを買収前に判断するための重要な情報となります。労務DD(労務デューデリジェンス)をやっておくことで、その先にある統合処理の難易度や、統合後の残存リスクも視野に入れて適切な判断をすることが可能になるのです。
M&A(企業の合併や買収)のプロセスは、買収先の調査(デューデリジェンス)から始まり、その後にさまざまなプロセスを経て、契約締結、そして最終的には統合処理へと進みます。
買収交渉が本格化する前に、簡易的な労務DD(労務デューデリジェンス)を行うことで、労働問題やリスクを事前に予見・評価することにより、買収判断や条件交渉の材料とすることが可能となります。
注意すべき点としてはこの段階の労務DD(労務デューデリジェンス)は、短期間で実施する簡易的なレビューであり、スコープを絞って行うため、労務DD(労務デューデリジェンス)の粒度としては概要報告という水準のレポートになるということです。
無事に買収した次のフェーズでは、自社グループへの「統合処理」を実施します。労務面では、買収先から承継した労働契約が、自社ルールへの統合によって不利益変更で問題とならないように調整する必要があります。やむをえず不利益とせざるをえない場合には、その代償措置や合意形成の進め方について入念に調査・検討することになります。
就業規則や関連規程の整備はIPO(上場)労務DD(労務デューデリジェンス)の主要な調査項目の一つです。規程類は労働者の権利と義務を明確にし、会社と労働者の間の紛争を防ぐための重要なルールとなります。
規程整備が不十分な場合や、法令と矛盾する内容が含まれている場合には、企業の法令遵守体制に問題があると判断され、IPO(上場)の審査に大きく影響を及ぼす可能性があります。
規程の内容が実態と整合しているか、労働者の働き方に応じて適切な雇用形態を選択し、それに伴う労働者の待遇が最新の法令に適合しているかなどを調査します。
労働条件通知書(雇用契約書)は、雇い入れ時に明示することで労使双方が労働条件を確認している重要な文書です。労働条件を示す重要なエビデンスとなること、労働基準法の明示義務を兼ねていることから必ず締結しておく必要があります。
労働紛争は多くの場合、
「約束通り賃金が払われていない」
「約束通り働いてくれない」
といった契約違反がその大半を占めます。
労務DD(労務デューデリジェンス)では、賃金の支払い方が雇用契約書に沿っているか、記載の仕方に問題がないか、正社員とパートタイム労働者、派遣労働者などの雇用形態ごとに、適切な労働条件が設定されているかをチェックします。
労働基準法に基づく労使協定の有無や内容を確認します。労使協定は非常に種類が多く多岐にわたります。例えば以下のような労使協定があります。
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時間外労働をさせる場合、就業規則に記載していたとしても、36協定(通称サブロク協定)が適切に締結されていない場合、企業は法律違反のリスクを抱えることになります。
特に重要なのは、労働者代表の選出手続きです。
労使協定にサインする労働者代表の選出手続きが民主的手法で行われていない場合、労使協定そのものが否認されるケースもあり、最悪の場合は、違法性だけでなく未払い残業代のリスクを負うこととなり、IPO審査に著しい影響を及ぼす可能性があります。
労働者代表の法的な要件については以下の記事も参考にしてください。
未払い残業代の評価と精算は、労務DD(労務デューデリジェンス)の中で最も重要な項目です。未払い残業代が発覚した場合、その後の法的トラブルや社会的な評価の低下は避けられません。そのため、企業が適正に労働時間管理を行い、未払い残業代が発生していないかを細部に渡って確認します。
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特に、労務では実態を重視する傾向があります。
など、具体的な運用状況も確認しながら調査をします。
その他、定額残業代(月45時間含む)を採用している会社では「みなし残業代の有効性」が未払い残業の論点となるケースも非常に多くみられます。もちろんIPO審査でも必ず指摘を受ける項目です。
これらの調査の結果、未払い残業代にあたるものがあった場合には、精算フローを策定のうえ、精算を実施することになります。
特に注意しなくてはならないのは、この精算は退職者に対しても行われるということです。
2020年のコロナ渦で、従業員の働き方は大きく変化しました。現在はオフィスワークとテレワークを半々に運用するような会社が増え、ますます勤務実態が掌握しずらくなっています。
IPOの労務審査では、
という点をシビアに点検されます。
労務DD(労務デューデリジェンス)で、もっともハイカロリーなタスクは未払い残業代の精算作業ですが、IPO(上場)を目指す以上は、将来に渡って未払い残業代が発生しないしくみを作り、未払い発生要因を規程面、運用面から、徹底的に除去しておく必要があります。外部の専門家や勤怠システムを導入し、自社の働き方にあった勤怠管理方法を確立しておく必要があるでしょう。
安全衛生管理体制とは安全衛生法に基づく体制整備を指します。労働安全衛生法に基づき、労働者の健康と安全を守るための管理体制が整っているか調査のうえ、万が一、法令に反する状況が見つかった場合には、その是正に向けた改善策を立案し、実行します。
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特に50人以上の事業所では衛生委員会の設置、衛生管理者、産業医の選任などやることが一気に増えていきますので注意が必要です。
例えば現在50人に満たないとしても、IPO準備中に増員する可能性があるか?など、採用予定を踏まえて準備しておく必要があります。
労働問題対応能力の底上げとは、従業員とのトラブルや労働問題を適切に対応し、解決するための能力を向上させることを指します。就業規則やマニュアルを定め、社内ルールを明確にしておくことで、労働問題を未然に防ぐとともに、速やかに対応することができるようになります。
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また、社員の意識改革を促すための研修やセミナーの実施、相談窓口の設置なども労働問題対応能力の強化に寄与します。
法定要件を満たした適用対象者が、労働保険(労災保険・雇用保険)、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入しているかを調査する項目です。
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特に、社会保険(健康保険・厚生年金保険)は適用対象の拡大などで新たに加入が必要になるケースが増えており、適用対象者の確認や手続きの進捗状況を把握することが求められます。
社会保険は法定要件を満たした場合は、強制加入となるため、加入漏れは、社会保険料の未払いにつながります。
令和6年10月1日以降は、従業員数51人~100人の事業所が新たに特定適用事業所となり、適用拡大の対象となりますので注意が必要です。詳細は以下の記事をご参考にしてください。
労務DDでは、非常に多くの項目を網羅的にチェックする必要があるため、チェックリスト形式で調査とヒアリングを進めていくことになります。
以下に主要なチェックリストをご紹介します。これらのチェックリストは行政のひな形によって様式が決められているわけではありませんので、労務DDを行う専門家によって異なることもありますし、企業の規模や業種によって変化しますのであくまでも一例としてご参考にしてください。
主要な調査テーマ | 詳細チェック項目 |
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就業規則、労使協定の整備状況 |
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雇用契約(労働条件) |
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休日・休暇 |
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労働時間 |
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管理監督者の範囲 |
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割増賃金 |
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未払い残業代 |
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パートタイマー |
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安全衛生管理体制 |
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育児介護休業 |
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労働者派遣法 |
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労務DDの一般的な流れについて以下に例示します。具体的には各社の状況やスケジュールによって内容や順序、期間は変わります。
NDAを締結のうえ、労務DDに必要な調査資料をすべて提出していただき、事前調査を行います。
実際のところ労務DDのスピード感は、この事前調査でどれだけ調査できるかにかかっています。
このフェーズで調査対象会社の資料が小出しだったり、品質が出ない、又は提出が遅いなどの遅延原因があると、恐ろしく時間がかかります。
このため、よりスピード感を求められる局面では、
などを、よく確認してから受任の可否を検討することになります。
以下は調査に必要となる資料の一例です。
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労務DDレポートに定められた調査項目について、提出された資料に基づき事前調査を行い、ヒアリングを行います。この際、経営陣と現場の温度差も考慮し、必要に応じて現場担当へのヒアリングやアンケートも行います。
IPOの労務DDは最短で3か月、労使間調整を含めると完全な着地まで半年かかるケースもありますのでタスクごとにマイルストーンをひき、作業を計画的に進めることが重要なポイントとなります。
この点、担当社労士の経験値とディレクション能力が労務DDの成否のカギとなります。
資料調査とヒアリングの結果を基に、リスクの有無やその程度、改善すべき点を専門的かつ客観的な視点で具体的に分析・評価のうえ、労務DDの調査結果と改善方法をまとめてレポーティングします。この成果物が一次調査結果のみか、具体的な対策方法の提案まですあるかについては、事前によく確認しておく必要があります。
労務DD(労務デューデリジェンス)を依頼できる専門家には弁護士や社労士など国家資格有資格者があります。労務DD(労務デューデリジェンス)の費用は依頼する調査項目や企業の規模、依頼する専門家によって異なりますが、社労士の場合、労務監査だけであれば、60万~80万円程度が相場ではないかと考えます。
労務DD(労務デューデリジェンス)の範囲で労務監査とあわせて、課題解決も依頼するとなれば社労士の工数も増加し、より解決スキルの高いメンバーをアサインすることになりますので、150万円程度が相場にはなるのではないかと考えます。
いずれにせよ、労務DDは未払い残業代の精算という大きな決断を伴うプロジェクトとなりますので、多少高額に感じても、品質の高いサービスや実績ある事務所に依頼するのが安心だと考えます。
世の中の労務DDサービスは大きく分けると労務監査型と課題解決型に分かれます。労務監査型は、労務面での課題や問題点を洗い出し、外部専門家として客観的な視点でのレポーティング取得を目的としています。この場合、NG項目は明確になるものの、それに対する具体的解決方法は示されません。
このため、労務DDにかかる費用は課題解決型に比べて安価に抑えることができます。M&Aの買収判断をしたい場合などに適しているといえるでしょう。
一方、課題解決型は「IPO労務審査の通過」そのものを主たる目的にしておりますので問題点の洗い出しだけではなく、未払い精算フローの作成や、労務管理体制の構築、規程のアップデートや雇用契約書のまき直しなど、具体的施策を講じながら課題を解決していくことになります。その分、時間とコストがかかりますので監査型よりも高額になる傾向があります。
自社がどちらのタイプの労務DDを求めているのか、提案を受けている専門家のサービスがどちらのタイプなのかをよく見極めておく必要があると考えます。
労務DD(労務監査タイプ) | 労務DD(課題解決タイプ) |
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メリット・・・安価で、スピーディに課題が明確化できる。 | メリット・・・課題が明確化できるとともに、解決まで一気通貫で解決できる。 |
デメリット・・・課題解決の提案まで行われない。 | デメリット・・・高額で、監査だけの場合よりも時間がかかる。 |
労務DD(労務デューデリジェンス)で専門家がやらないことを把握しておくことも重要です。労務DDは、それまで全く関与していない社労士が介入して客観的資料を基に評価を行うことがほとんどです。このため、業務範囲をしっかり確認しておく必要があります。
たとえば、未払い残業代の再集計、未払い給与の再計算は、それまで給与計算をやっていた人にやり直してもらうい必要があります。また、多くの場合、労働契約書のまき直しが必要となりますが、その実務は代理行為となるため、社労士は職域上できません。実際の労使間調整は、企業自らやることになります。
労務DDを担当する社労士事務所は、
などを通してサポートさせていただくことになることが多いでしょう。
社会保険労務士は労働法令に精通した国家資格者であり、労務管理のスペシャリストです。日頃から給与計算や社会保険の代行業務を行っていることから、労務管理や給与計算の現場実務を知り尽くしているという特長があります。
労務系の審査は、特に「運用面」がボトルネックになることが多いので実務レベルの相談ができる社労士の存在は大きいといえます。IPOを目指す会社は、健全な労働環境を維持するために、早めに自社に合った社労士事務所を探すことをお勧めします。
エスティワークスが培ってきたIPO労務DDのノウハウと最新の研究成果をぜひご活用いただければ幸いです。ご相談レベルで構いませんので、まずはお気軽にお問合せください↓
この記事を書いた人
株式会社エスティワークス 代表・特定社会保険労務士
明治大学卒業後、上場メーカーにて勤務。 最前線において管理職(ライン課長、プロジェクトマネージャー等)を歴任し、現場のマネジメントにあたる。平成16年に社会保険労務士資格を取得。その後、独立して株式会社エスティワークスを設立。平成18年に新たに開始された特定社会保険労務士制度 第1期合格のうえ付記。中小企業を中心に社内規程の整備、労務管理のコンサルティングを行う。 また、IPO(上場)労務分野に強みを持ち、これまでに大手アパレルEC系ベンチャー、AIベンチャーなど日本を代表する30社以上のベンチャー企業のIPO(上場)支援実績がある。