労働法改正情報

高年齢者雇用に関する制度の改正(令和7年4月1日施行)

2024.12.26

高年齢者雇用に関する制度の改正(令和7年4月1日施行)

2025年は、高年齢者雇用に関する下記2つの制度が改正される予定となっております。

  • 65歳までの雇用確保の完全義務化(経過措置の終了) 
  • 高年齢雇用継続給付の縮小 

内閣府が作成する高齢社会白書の令和6年版では、「65歳以上の就業者数及び就業率は上昇傾向であり、特に65歳以上の就業者数は20年連続で前年を上回っている。」という報告がり、企業における高齢者の雇用環境の整備は急務となっております。

体力的な面から長時間労働が難しいといった問題は高年齢者の就業機会を制限する要因になりえますが、その経験や知識は、組織にとっての貴重な資源でもあります。高齢者の雇用環境を整備することで、長年培った技術や知識を若い世代へと引き継ぐ機会が増え、企業の持続可能性を高めます。

現役世代の雇用環境に目が行きがちですが、今回のコラムで高齢者の雇用環境についても考えてみましょう。

65歳までの雇用確保の完全義務化

高年齢者雇用安定法とは

「高年齢者雇用安定法」は、少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として制定されました。この法律では高齢者の雇用機会の確保のため、定年などについての以下のような規定があります。

65歳までの雇用機会の確保

60歳以上定年 
従業員の定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上とする。

高年齢者雇用確保措置(平成25年4月改正) 
定年年齢を65歳未満に定めている場合、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、以下のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施する。

  1. 65歳までの定年引き上げ
  2. 定年制の廃止
  3. 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)を導入

高年齢者雇用確保措置の経過措置の終了

上記の高年齢者雇用確保措置のなかから「65歳までの継続雇用制度」を選択した場合は、希望する全ての労働者を継続雇用制度の対象とする必要があります。ただし法改正が施行される日(平成25年3月31日)までに、継続雇用制度の対象者を限定する基準を労使協定で設けていた場合は、その基準を適用できる年齢を段階的に引き上げていくこととなっていました。この経過措置は令和7年3月31日に終了し、令和7年4月1日からは労使協定により継続雇用制度の対象者を限定していた企業も、希望者全員に65歳までの雇用機会を確保しなければいけなくなりました。

70歳までの就業機会の確保(努力義務)

今回の法改正とは関係がないですが、令和3年4月の改正では、以下のような努力義務も規定されております。努力義務は将来的には義務となってくるので今のうちから対策をしておきましょう。

70歳までの就業機会の確保(努力義務)

高年齢者就業確保措置 (令和3年4月改正) 

定年年齢を65歳以上70歳未満に定めている事業主又は継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入している事業主は以下のいずれかの措置を講ずるよう努める必要があります。

  1. 70歳まで定年年齢を引き上げ
  2. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)を導入(他の事業主によるものを含む)
  3. 定年制を廃止
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
    b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

※ただし、創業支援等措置(上記4、5)については過半数組合・過半数代表者の同意を得て導入。

高年齢雇用継続給付の縮小

高年齢雇用継続給付とは

高年齢者の就業意欲を維持、喚起し、65歳までの雇用の継続を援助、促進することを目的とし、60歳到達等時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者に各月の賃金額に対して一定の割合の給付金を支給する制度です。この賃金額に対しての支給率が縮小します。

高年齢雇用継続給付の支給率の縮小

前述した「65歳までの雇用確保の完全義務化」により高年齢者の労働環境が整備されつつあることから、高年齢雇用継続給付の支給率の縮小が決定しました。60歳に達した日が令和7年4月1日以降の方高年齢雇用継続給付の支給率が以下のように変わります。

高年齢雇用継続給付の支給率

令和7年3月31日以前
60歳に達した日を迎えた人

令和7年4月1日以降
60歳に達した日を迎えた人

賃金の15%を限度として支給
(従来の支給率)

賃金の10%を限度として支給
(変更後の支給率)

なお、高年齢雇用継続給付は今後も段階的に縮小し、最終的には廃止する方針も示されています。

実務のポイント

65歳までの雇用確保の完全義務化・高年齢雇用継続給付の縮小に伴い、2025年4月1日までに企業が対応すべきポイントは下記の通りです。

継続雇用制度の改正対応

高年齢者雇用確保措置の経過措置を適用していた企業は、継続雇用制度の対象者を「希望者全員」へと改定し、雇用契約の内容や就業規則を見直す必要があります。特に就業規則において経過措置に関する定めを記載している場合、該当条文を削除する必要があります。

賃金制度の見直し

高年齢者の賃金制度について、高年齢雇用継続給付の支給を見込んだ制度を策定している企業もあります。その場合には、今回の高年齢雇用継続給付の縮小に伴う見直しが必要になると考えられます。なお、賃金制度の見直しの際には、パートタイム・有期雇用労働法に定められる、いわゆる「同一労働同一賃金」にも注意が必要です。パートタイム・有期雇用労働法第8条では、正社員と非正規労働者の間で不合理な待遇差を設けることが禁止されています。定年後再雇用においても、職務内容、職務内容・配置変更の範囲等を正社員と比較して不合理な待遇差がないか、確認を行いながら見直しをすることが重要です。

まとめ

今回は高齢者の雇用環境に関する改正について解説をしました。高齢社会への対応は今後もますます必要となってきます。単なる労働力の確保として対策をするのではなく、冒頭でも述べたように経験や技術を次世代へ継承していく施策と考え、すべての世代が働きやすい雇用環境の整備を目指していきましょう。

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参考URL

令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」(厚生労働省)

高年齢者の雇用」(厚生労働省)


関㟢 悠平

この記事を書いた人

関㟢 悠平

平成29年入社 早稲田大学卒 大学卒業後は、ブライダル関連の上場企業でサービス業に従事。その後、エスティワークスに参画し社会保険労務士の資格を取得。丁寧な業務遂行と持ち前のトーク力で多くのお客様の信頼を得ている。