労働法改正情報
令和6年5月31日に改正育児介護休業法が公布され、令和7年4月、10月と段階的に施行されます。
今回は令和7年4月1日施行の内容から、介護離職防止に関する改正内容を、厚生労働省から公表されたQ&Aの内容を踏まえてご紹介いたします。
日本では高齢者人口の増加に伴い、要支援・要介護認定者数は増加の一途をたどっています。2024年8月に発表された厚生労働省の統計によれば、2023年3月末時点の要支援・要介護認定者数は694万人で、前年からおよそ5万人増加し、過去最多となりました。2025年には団塊世代が75歳に到達し、介護の必要性はますます増加することが見込まれます。
その介護の担い手となるのは働き盛りの世代であり、多くの企業においてその中核を担っていることが少なくありません。最前線で活躍する方が、介護のために職を辞さないといけないという状況は、労使双方にとって避けなければならない重要な課題です。
一方、育児休業と異なり介護休業は突発的に発生することも多く、かつ期間が不定期であり、対応の仕方も多種多様です。そのため仕事と介護の両立は育児以上に困難となることもありえます。
今回のコラムで介護休業とは何か、改正のポイントについて整理してインプットしておきましょう。
なお、令和7年4月1日から段階的に施行される育児介護休業法等の改正については以下のコラムでポイントをまとめておりますので、ご興味のある方はご一読ください。
介護離職防止(令和7年4月施行)に関する改正のポイント
令和7年の育児介護休業法の改正は以下の項目が段階的に施行されることとなっています。今回解説する項目は下表7と8に記載されている介護離職防止に関する改正点です。
主なポイントは、育児に関する改正と同様に「労働者の仕事と介護の両立支援」となります。
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そもそも介護休業とは何か?
今回の改正のポイントを解説する前に、介護休業の概要について簡単に説明します。介護休業とは、育児介護休業法により以下の通り定義されています。
介護休業とは | 労働者が要介護状態にある対象家族を介護するための休業 |
要介護状態とは | 負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態 ※ 育児介護休業法上は、要介護認定を受けていなくても、介護休業の対象となり得ます。 |
常時介護を必要とする状態とは | 常時介護を必要とする状態については、厚生労働省によって判断基準が定められていますので、この基準に従って判断されることになります。 |
介護休業中は介護休業給付がもらえる
介護のために休業する者(雇用保険の被保険者)が、事業主に申し出を行い、これによって一定の要件を満たせば、介護休業給付を受けることが可能となっております。
雇用保険の介護休業給付の概要 | |
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対象となる従業員 | 家族を介護する労働者(日々雇用を除く) |
家族の範囲 | 配偶者 (事実婚を含む) 、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫 |
期間 | 家族1人につき3回まで、通算で93日まで |
介護休業給付の額 | 休業開始時賃金日額×支給日数×67% ※ 正確な金額はハローワークにより算出されます。 |
「介護離職防止のための雇用環境整備」とは何か?
介護休業や介護両立支援制度等の申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下の①~④いずれかの雇用環境整備の措置を講じなければなりません。 この措置は一つだけなく、複数講じることが望ましいとされています。
少なくとも1つは措置を講じる必要があるのですが、会社がすぐに対応できるのは「相談窓口の設置」ではないかと考えます。
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Q 介護に直面している社員がおらず、また、採用する予定がない場合でも、雇用環境整備をする必要はありますか?
A 必要はあります。 介護休業や仕事と介護の両立支援制度等の対象となる家族には、直系の祖父母や配偶者の父母も含まれることから、幅広い年齢の労働者が介護休業申出や介護両立支援制度等の利用に係る申出を行う可能性があります。 また、雇用環境の整備の措置を求めている育児・介護休業法では、義務の対象となる事業主を限定していないことから、全ての事業主が雇用環境の整備をしていただく必要があります。 |
「介護離職防止のための個別の周知・意向確認等」とは何か?
事業主は、介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、以下の事項の周知と介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を、個別に行わなければなりません。
個別の周知・意向確認に関する方法 | |
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周知事項 |
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個別周知・意向確認の方法 |
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Q 介護に直面した旨の申出は口頭でもよいですか。
A 口頭でも可能です。 法令では、申出方法を書面等に限定していないため、事業主において特段の定めがない場合は口頭でも可能です。(※) 口頭による申出の場合でも措置を実施する必要がありますので、円滑な措置の実施のために、例えば、あらかじめ社内で申出先等を決めておき、その周知を行っておくことが望ましいです。 事業主が申出方法を指定する場合は、申出方法をあらかじめ明らかにしてください。 仮に申出方法を指定する場合、その方法については、申出を行う労働者にとって過重な負担を求めることにならないよう配慮しつつ、適切に定めることが求められますので、例えば、過度に煩雑な手続を設定するなど、労働者が当該措置の適用を受けることを抑制し、ひいては法律が当該措置を講ずることを事業主に義務付けた趣旨を実質的に失わせるものと認められるような手続を定めることは、許容されるものではありません。 また、仮に、その場合に指定された方法によらない申出があった場合でも、必要な内容が伝わるものである限り、措置を実施する必要があります。 |
Q 介護離職防止のための個別の周知・意向確認の措置は、令和7年4月1日から開始されますが、当該措置は、令和7年4月1日以降に介護に直面した旨の申出があった労働者に対して行えばよいですか。
A そのとおりです。 なお、あらかじめ、令和7年4月1日より前に介護に直面した旨の申出等により介護に直面していることが分かっている労働者に対しては、個別の周知・意向確認の措置を行っていただくことが考えられます。 |
Q 個別の周知・意向確認は、人事部から行わなければならないですか。所属長や直属の上司から行わせることとしてよいですか。
A 事業主の委任を受けていれば差し支えありません。 「事業主」として行う手続きは、事業主又はその委任を受けてその権限を行使する者と労働者との間で行っていればよく、人事部でなくても、事業主から委任を受けていれば、所属長や直属の上司であっても差し支えありません。なお、所属長や直属の上司が実施することで、労働者が意向の表明をしにくい状況にならないよう、実施者となる所属長や直属の上司に対し、制度の趣旨や適切な実施方法等を十分に周知しておくことが重要です。 |
介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供が必要
労働者が介護に直面する前の早い段階で、介護休業や介護両立支援制度等の理解と関心を深めるため、事業主は介護休業制度等に関する以下の事項について情報提供しなければなりません。情報提供をする期間についても定めがあるため注意が必要です。
また、40歳は、社会保険上の介護保険の被保険者となる年齢です。介護に関する重要な年齢ですので覚えておきましょう。
介護休業制度等に関する情報提供の方法 | |
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情報提供期間 (1、2のいずれかの方法) |
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個別周知・意向確認の方法 |
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情報提供の方法 |
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Q 「介護に直面する前の早い段階での両立支援等に関する情報提供」について、例えば、年度当初などに対象となる労働者を一堂に集めてまとめて実施してもよいですか
A 差し支えありません。 「介護に直面する前の早い段階での両立支援等に関する情報提供」は、介護休業や介護両立支援制度等の理解と関心を深めるために行うものであり、年度当初などに対象者を一堂に集めて行っていただいても差し支えありません。 |
実務のポイント
今回の改正が施行される令和6年4月1日までには少なくとも以下の実務上の準備が必要となります。
- 改正育児介護休業法に対する自社の方針の検討と決定
- 育児介護休業規程の改定施行
- 育児介護休業に関する労使協定の改定施行
- 申請様式の整備
- 社内への規程周知
- 窓口となる人事労務担当者の学習と準備、上司への研修
育児介護休業はもともと非常に複雑な制度です。「休業」と「給付金」は管轄する役所も異なるため、繰り返し確認しておかないと社員からの問い合わせにすぐに対応することができません。この機会に知識の整理をしつつ顧問社労士の力を借りて準備を進めてください。
なお、介護休業及び介護両立支援制度等の個別周知・意向確認書の記載例や、40歳情報提供の記載例は厚生労働省の特設サイトの規定例より確認ができます。
まとめ
今回は介護離職防止に関する改正について解説をしました。働き方が多様化していくなかで、今後も育児や介護といった従業員の私生活に関する部分と仕事との両立は益々求められていくことになり、またその要望に応えるための法改正は増えていくと考えられます。
改正の内容だけでなく、育児介護休業制度全般の基礎を正確に把握し、企業の規模や実情にあわせた労働環境の整備をしていきましょう。
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参考URL
「育児介護休業法特設サイト」(厚生労働省)
「介護休業特設サイト」(厚生労働省)
「令和6年改正育児・介護休業法に関する Q&A 」(厚生労働省)
この記事を書いた人
平成29年入社 早稲田大学卒 大学卒業後は、ブライダル関連の上場企業でサービス業に従事。その後、エスティワークスに参画し社会保険労務士の資格を取得。丁寧な業務遂行と持ち前のトーク力で多くのお客様の信頼を得ている。