労働法改正に関するコラム

失業保険(基本手当)の給付制限期間の改正~令和7年4月1日施行~

公開日:2025.04.21

更新日:2025.04.21

失業保険(基本手当)の給付制限期間の改正~令和7年4月1日施行~

令和6年に雇用保険等法改正が可決され、令和7年から施行されることになりました。今回はその中でも特に注目されている、令和7年4月1日から施行される自己都合退職者の基本手当(失業保険)の給付制限の短縮についてご紹介いたします。この改正は、退職する従業員の受給に関するものですが、会社としても、用主として従業員への適切なサポートを行うための情報をしっかりと把握しておくことが求められます。

自己都合退職する従業員にとっては、失業保険の受給期間や受給開始日は、退職日や引継ぎを判断するための重大な関心事です。

ここでは、改正の背景や目的、具体的な変更内容、企業が取るべき対応策について詳しく解説し、会社の人事労務担当者が従業員の退職手続きをスムーズにサポートする方法をお伝えします。

エスティワークスが培ってきた労働法令のノウハウと最新の研究成果をぜひご活用いただければ幸いです。ご相談レベルで構いませんので、まずはお気軽にお問合せください↓

令和7年の雇用保険改正の概要

雇用保険法改正の背景と目的

まずは、改正の背景と目的について詳しく見ていきましょう。近年、労働市場の流動性が高まる中で、自己都合退職者が失業保険の受給開始までに長期間待たされることが、再就職活動の妨げになるという指摘がありました。これに対応するため、政府は雇用保険制度の見直しを進め、特に自己都合退職者の給付制限期間を短縮することで、再就職への支援を強化することを目的としました。この改正は、労働者がより迅速に次の仕事を見つけるための環境を整え、経済全体の活性化につなげる狙いがあります。

失業保険に関する変更点

具体的な変更点としては、従来原則として2ヶ月間であった自己都合退職の給付制限期間が1ヶ月に短縮されることが大きなポイントです。これにより、自己都合退職者は従来よりも早く失業保険を受け取ることが可能になり、経済的な不安を抱えることなく、安心して次のステップに進むことができるようになります。この変更は、退職後の生活設計を立てやすくし、再就職活動を積極的に行える環境を提供するための重要な施策です。企業にとっても、今回の改正は退職する従業員への支援体制を見直す良い機会となります。

従業員が円滑に退職し、次の職場に移行できるようしっかり情報提供を行うことは、退職者のみならず、在籍従業員にとっても「安心して働ける職場」という印象を残します。退職時のマネジメントは企業全体の労務マネジメントに大変重要な意味があるのです。

失業保険(雇用保険の基本手当)とは

雇用保険の基本手当とは、雇用保険の一般被保険者が失業した際に一定の収入を確保するための制度で、世の中では失業保険保険や失業給付といったネーミングでも知られており、主に失業中の生活を支える役割を担っています。この基本手当は、労働者が職を失った際に給付されるもので、失業による経済的な影響を軽減し、安心して新たな職に就くための準備期間を提供します。支給額は、過去の給与水準や年齢、そして失業前の勤務期間などを基に計算され、個人の状況に応じて異なります。

基本手当の受給条件は多岐にわたり、一定期間以上の雇用保険の加入が求められる他、積極的に再就職活動を行う意思があることが確認される必要があります。これにより、制度の趣旨に従い、真に再就職を目指している人々を対象(失業状態といいます。)に適切な支援が行われます。

自己都合退職の給付制限とは

失業保険における給付制限の概要

一方で、自己都合退職の場合には一定の給付制限が課されることがあります。この給付制限は、退職理由が個人の都合による場合に適用されるもので、一定期間は基本手当の受給ができないというルールです。今回の改正では、この制限期間の短縮が図られ、自己都合退職者に対する支援が強化されました。

失業保険(雇用保険の基本手当)に関する具体的な改正ポイント

支給開始時期の変更

では具体的な、改正内容をみていきましょう。基本手当の支給開始時期は、離職理由によって異なります。

法改正施行前は下記の通りです。

離職理由(改正前)支給開始時期(改正前)

解雇・定年等により離職

離職票を提出し、求職の申込みをしてから7日間の失業している日(待機)が経過した後

自己都合、懲戒解雇により離職

離職票を提出し、求職の申込みをしてから7日間の失業している日(待機)+2か月又は3か月(給付制限)が経過した後

令和7年4月1日以降は、下記の通りとなります。

離職理由(改正後)支給開始時期(改正後)

解雇・定年等により離職

離職票を提出し、求職の申込みをしてから7日間の失業している日(待機)が経過した後

自己都合、懲戒解雇により離職

離職票を提出し、求職の申込みをしてから7日間の失業している日(待機)+1か月又は3か月(給付制限)が経過した後

これまで、被保険者が自己の都合によって退職した場合には、基本手当の受給資格決定日から7日間の待期期間満了後、2か月間、基本手当の支給がされない期間(「給付制限」といいます)がありましたが、今回の法改正により、自己都合退職者の給付制限が2か月から1か月に短縮されました。

尚、上表で「又は3カ月」と表示されているのは、単なる自己都合ではなく労働者側に問題がある、または短期間での退職が多いと判断された場合のペナルティのようなものです。

具体的には下記の場合には離職理由が自己都合であっても、給付制限は3か月となります。

  • 自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇(重責解雇)された場合
  • 退職日から遡って5年間のうちに2回以上、自己都合退職し受給資格決定を受けた場合

教育訓練等を受けた場合の給付制限の解除

このほか、同改正により、教育訓練等を受ける場合には給付制限が解除され、基本手当を受給できることとなりました。

教育訓練給付制度とは

教育訓練給付制度とは、働く方々の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図ることを目的として、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、教育訓練経費の一部が支給されるものです。

どのような教育訓練でも対象になるわけではないので、その点注意が必要です。

例えば下記のような資格・免許を取得するための講座が対象となります。

  • 大型自動車第⼀種・第二種免許
  • キャリアコンサルタント
  • 簿記検定試験
  • 保育士
  • 看護師
  • 宅地建設取引士資格試験
  • 電子主任技術者試験 など

給付制限が解除され失業保険が受給できるパターン

また、離職期間中や離職日前1年以内に、自ら雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練(以下のいずれか)を行った場合には、給付制限が解除されます。(令和7年4月1日以降に受講を開始したものに限る。)

  1. 教育訓練給付金の対象となる教育訓練
  2. 公共職業訓練等
  3. 短期訓練受講費の対象となる教育訓練
  4. 1~3に準ずるものとして職業安定局長が定める訓練

これにより、自己都合退職などで給付制限が生じた場合でも、積極的にスキルアップを図ることで、基本手当の受給が可能となります。

具体的には、離職日前の1年間に上記のいずれかの教育訓練を受講し、修了した場合、もしくは離職後に訓練を受けている場合が対象です。ただし、訓練が途中で終了した場合には給付制限解除の対象外となるため、注意が必要です。

この制度の活用により、再就職に向けた準備をしながら、経済的な支援を受けることが可能となり、雇用保険制度の柔軟性が高まります。

さらに、教育訓練給付制度の利用を検討する際は、具体的な訓練内容や受講期間、訓練終了後のキャリアプランを明確にすることが重要です。これにより、給付制限解除の恩恵を最大限に享受し、より良い就職機会をつかむことが可能となります。失業中の時間を有効に活用し、スキルアップやキャリアアップを目指す方々にとって、この制度は有益な選択肢となるでしょう。

実務のポイント

本改正により転職希望者等の自己都合による退職者もいわゆる失業給付の受給がしやすくなります。退職者の今後の再就職活動にも影響を与える改正となりますので、退職者からは多くの質問が寄せられることが予測されます。人事労務担当者は、しっかりと把握しておきましょう。

尚、離職票の交付を希望する退職者には、離職票交付時に「離職された皆様へ」という失業給付に関するハローワークの案内を離職票と一緒に交付することとなっております。今回取り上げた給付制限や、失業給付を受給するための手続きの流れ等の記載もある大切な資料となりますので、忘れずに退職者に交付するようにしましょう。

まとめ

雇用保険の給付制限の改正は、多くの労働者や雇用主にとって重要な情報です。特に、自己都合退職を考えている方にとって、給付制限の短縮は失業保険の受給をスムーズにする大きな助けとなります。これにより、退職後の生活の不安を軽減し、転職活動に専念できる環境が整います。

また、雇用主においても、従業員が円滑に退職し、その後のキャリアを支援するために、最新の法改正について理解しておくことが必要です。具体的な手続きや詳細情報については、厚生労働省の公式サイトやハローワークで確認し、適切な対応を心掛けましょう。文末に、参考資料をまとめておきます。ぜひ、この機会に最新の情報を把握し、適宜活用してください。

労務管理に関するご相談は経験豊富なエスティワークスへ

エスティワークスは顧問社労士として、これまで300社以上のお客様の労務管理や規程整備に伴走してきました。

我々が培ってきた実務ノウハウと最新の研究成果をぜひご活用いただければ幸いです。

ご相談レベルで構いませんので、まずはお気軽にお問合せください。

参考URL

離職された皆様へ(東京ハローワーク)

令和6年雇用保険制度の改正内容について(厚生労働省)

令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます(厚生労働省)


エスティワークスが培ってきた労働法令のノウハウと最新の研究成果をぜひご活用いただければ幸いです。ご相談レベルで構いませんので、まずはお気軽にお問合せください↓

関㟢 悠平

この記事を書いた人

関㟢 悠平

平成29年入社 早稲田大学卒 大学卒業後は、ブライダル関連の上場企業でサービス業に従事。その後、エスティワークスに参画し社会保険労務士の資格を取得。丁寧な業務遂行と持ち前のトーク力で多くのお客様の信頼を得ている。