労働法改正情報
令和6年5月31日に「育児介護休業法」と「次世代育成支援対策推進法」(次世代法)の改正が公布されました。前回のコラムでは「育児介護休業法」の改正のポイントについて紹介しましたが、今回は「次世代育成支援対策推進法」(次世代法)の改正のポイントについて解説をしていきます。
次世代法は、次代の社会を担う子どもの健全な育成を支援するため、平成17年に施行された法律です。この法律に基づき国・自治体・事業主が次世代の育成支援についての目標を定めた行動計画を推し進めていき、社会全体で子どもが育てやすい環境を整えていくことで、少子化の流れを変えることがこの法律の目的です。事業主においては、特に、育児休業の取得促進や職場環境の整備に重点が置かれています。
次世代法の概要を簡単に説明したうえで、今回の改正について紹介し、最後に改正に伴う実務のポイントを解説したいと思います。
次世代育成支援対策推進法(次世代法)とは
次世代育成支援対策推進法とは、子どもの健全な育成を支援を目的とし、10年間の時限立法として平成17年に施行されました。施行より10年が経過していますが、平成26年に改正時され、平成37年(2025年)3月31日まで延長が決定しています。
冒頭でも説明した通り、この法律に基づき次世代の育成支援のための行動計画を事業主は策定することになります。この行動計画は「一般事業主行動計画」と呼ばれています。一般事業主行動計画では、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むために、(1)計画期間、(2)目標、(3)目標達成のための対策及びその実施時期を定めることとなっており、従業員101人以上の企業は、行動計画の策定・届出、公表・周知が義務付けられています。
改正の2つのポイント
今回は、下記の2点が改正されました。
①次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画策定時に、育児休業の取得状況等に係る状況把握・数値目標の設定を事業主に義務付ける。 ②次世代育成支援対策推進法の有効期限(現行は令和7年3月31日まで)を令和17年3月31日まで、10年間延長する。 |
以下で詳しく説明します。
①育児休業取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務付けられました
【施行日:令和7月4月1日】
改正により、一般事業主行動計画の策定時に、育児休業の取得状況などの把握と数値目標の設定が従業員101人以上の企業に義務付けられ(100人以下は努力義務)、企業は、これまで以上に実行力が伴う行動計画の策定が求められることになります。
今回の行動計画の策定時に義務付けられたのは以下の2点です。
・PDCAサイクルの確立 ・数値目標(育児休業の取得状況、労働時間の状況)の設定 |
・PDCAサイクルの確立
計画策定時の育児休業の取得状況や労働時間の状況を把握し、改善すべき事情を分析し、その分析結果を踏まえつつ新たな行動計画を策定又は変更していくことが義務付けられます。
・数値目標の設定を義務付け
また計画の策定時には、先ほど把握した育児休業の取得状況、労働時間の状況についての目数値目標を設定することが義務付けられます。
育児休業の取得状況や労働時間の状況について
厚生労働省の資料では以下のように注釈があります。まだ予定となっているため、具体的な数値目標の設定の仕方については厚生労働省からの発表をお待ちください。
育児休業の取得状況:省令により、男性の育児休業等取得率とする予定 |
行動計画に盛り込むことが望ましい事項
また、行動計画に盛り込むことが望ましい事項として、以下のような指針を示すことが予定されています。
・両立支援制度利用時の業務の分担や業務の代替要員確保に関する企業の方針 |
②次世代法の有効期限が令和17年3月31日まで延長されました
【施行日:令和6月5月31日】
平成26年の改正時に、平成37年(2025年)3月31日まで延長が決定しておりましたが、今回の改正により令和17年3月31日まで延長されることとなりました。
改正に伴う実務のポイント
改正のポイント①で解説した「育児休業取得等に関する状況把握・数値目標設定の義務化」は、施行日(令和7月4月1日)以降に開始又は内容変更をする行動計画から対象となります。次回の行動計画の開始日が令和7月4月1日以降となる場合、次の計画には、育児休業の取得状況や労働時間の状況についての数値目標を設定しなければなりません。また計画策定時には先述した状況把握し改善すべき事情の分析も必要となってきます。
まず現在の行動計画の期間を確認し、次の行動計画策定時に向けて、前もって状況把握や分析の仕方を検討しておくことが大切です。
まとめ
今回は次世代法の改正について、ポイントごとに解説していきました。
前回解説した育児介護休業法の改正では、育児や介護と仕事を両立することができる労働環境を整備するために企業が取るべき措置について規定されていました。次世代法では、育児と仕事の両立を図るという目的は変わりませんが、行動計画の策定→公表→実施→分析→改善というサイクルを義務付けることで、企業に対して、実行力の伴った労働者が有効性をより強く実感する育児支援の施策を求めていると考えられます。
行動計画の策定時には、法律の要件を満たすことは最低条件として大切ですが、そこにとらわれず従業員の実態にあった計画を策定することが、育児をしている人やそうでない人の両方が働きやすい環境に繋がっていくと考えます。
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この記事を書いた人
平成29年入社 早稲田大学卒 大学卒業後は、ブライダル関連の上場企業でサービス業に従事。その後、エスティワークスに参画し社会保険労務士の資格を取得。丁寧な業務遂行と持ち前のトーク力で多くのお客様の信頼を得ている。