労働法改正情報

適用猶予事業・業務の時間外労働の上限規制~労働基準法~(令和6年4月1日より適用)

2023.12.15

適用猶予事業・業務の時間外労働の上限規制~労働基準法~(令和6年4月1日より適用)

【1】概要

働き方改革関連法により労働基準法が改正され、同改正に基づく時間外労働の上限規制は、平成31年4月1日(中小企業は令和2年4月1日)に施行されましたが、下記の一部事業・業務については適用が猶予されていました。

1.自動車運転の業務
2.工作物の建設の事業
3.医業に従事する医師
4.鹿児島県・沖縄県における砂糖製造業

令和6年4月1日から適用猶予が終了し、上記の事業・業務においても時間外労働の上限規制が適用されます。ただし適用開始後も、一部規制については適用されないなど、一般則と異なる規定が定められています。令和6年4月1日以降に適用される具体的な内容は下記のとおりです。

事業・業務令和6年4月1日以降の取り扱い
自動車運転の業務

・特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
・時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制が適用されません。
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月までとする規制は適用されません。

工作物の建設の事業

・災害時における復旧及び復興の事業を除き、上限規制がすべて適用されます。
・災害時における復旧及び復興の事業には、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制は適用されません。

医業に従事する医師

・特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外・休日労働の上限が最大1,860時間となります。
・時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制が適用されません。
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月までとする規制は適用されません。
・医療法等に追加的健康確保措置に関する定めがあります。

鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業

・上限規制がすべて適用されます。
※猶予期間中も、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制以外は適用されます。

このうち、「自動車運転の業務」「医業に従事する医師」に関して詳細を補足いたします。

【2】自動車運転の業務

時間外労働の上限は月45時間、年360時間を原則として、臨時的な特別な事情がある場合の例外として、上限が年960時間(休日労働を含まない)とされています。
また、時間外労働の上限規制の適用開始と合わせ、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が改正されました。この改善基準告知における主な変更点は、下記のとおりです。

●タクシー運転者

項目改正前
改正後
日勤の1か月の拘束時間299時間288時間
日勤の1日の休息時間8時間

継続11時間以上与えるよう努め、9時間を下回らない

●トラック運転者

項目改正前改正後
1年の拘束時間3,516時間

原則3,300時間
(労使協定により3,400時間まで延長可)

1か月の拘束時間

原則293時間
(労使協定により320時間まで延長可)

原則284時間
(同310時間まで延長可)

1日の休息時間継続8時間

継続11時間以上与えるよう努め、9時間を下回らない

●バス運転者

項目
改正前
改正後
1年の拘束時間

原則3,380時間
(労使協定により3,484時間まで延長可)

原則3,300時間
(労使協定により3,400時間まで延長可)

1か月の拘束時間

原則281時間
(労使協定により309時間まで延長可)

原則281時間
(同294時間まで延長可)

1日の休息時間
継続8時間

継続11時間以上与えるよう努め、9時間を下回らない

【3】医業に従事する医師

医師については、勤務する医療機関などにより「A水準」「B水準」等の水準に分けられ、それぞれにつき年の上限時間が定められています。

水準
長時間労働が必要な理由
年の上限時間
A水準
(臨時的に長時間労働が必要な場合の原則的な水準)
960時間
連携B水準
地域医療の確保のため、派遣先の労働時間を通算すると長時間労働となるため

1,860時間
(各院では960時間)

B水準
地域医療の確保のため
1,860時間
C-1水準
臨床研修・専攻医の研修のため
1,860時間
C-2水準
高度な技能の修得のため
1,860時間

A水準:すべての勤務医に対して原則的に適用
連携B水準:本務以外の副業・兼業として派遣される際に適用
B水準:自院内で長時間労働が必要な場合に適用
C-1水準:臨床研修医/専門医の研修のため長時間労働が必要な場合に適用
C-2水準:専門医を卒業した医師の技能研修のために長時間労働が必要な場合に適用

また、時間外労働の上限規制に合わせ、同日施行の医療法改正により追加的健康確保措置が義務化されます。追加的健康確保措置として、連続勤務時間制限、勤務間インターバル、代償休息、面接指導などがあります。

【4】実務のポイント

各事業・業務について、どの部分は一般則と同様に適用されるのか・どの部分については例外が適用されるのか確認し対応することが求められます。厚生労働省の該当ページには、各事業・業務に関するQ&Aや解説が公表されていますので、御確認ください。

参考URL

『時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務』(厚生労働省HP)

関㟢 悠平

この記事を書いた人

関㟢 悠平

平成29年入社 早稲田大学卒 大学卒業後は、ブライダル関連の上場企業でサービス業に従事。その後、エスティワークスに参画し社会保険労務士の資格を取得。丁寧な業務遂行と持ち前のトーク力で多くのお客様の信頼を得ている。