労働法改正情報
【1】概要
令和5年3月30日付の通達において、労働基準法施行規則等を一部改正する省令が公布されました。同通達において公布された労働基準法施行規則の改正事項は、主に下記の通りとなります。
主な改正事項 |
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1.労働条件明示事項の追加について ①就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲 ②通算契約期間又は有期労働契約の更新回数の上限 ③無期転換申込みに関する事項及び無期転換後の労働条件 ④上記に関する書面の交付等の方法による明示 |
2.裁量労働制について ①裁量労働制の協定・決議事項、記録の保存 ②労使委員会の要件 ③定期報告について |
この通達について、これまで下記のように2回にわたり当コラムでご紹介をいたしました。
1.労働条件明示事項の追加について(令和5年4月14日公開)
2.裁量労働制について(令和5年6月19日公開)
今回、「1.労働条件明示事項の追加について」のうち、「①就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲」について、詳しい記載例等が厚生労働省のパンフレットにて公表されましたので、その内容をご紹介いたします。
【2】就業場所・業務の変更の範囲
全ての労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加え、これらの「変更の範囲」についても明示が必要になりました。
「就業場所と業務」とは、労働者が通常就業することが想定されている就業の場所と、労働者が通常従事することが想定されている業務のことを指します。
配置転換や在籍型出向が命じられた際の配置転換先や在籍型出向先の場所や業務は含まれますが、臨時的な他部門への応援業務や出張、研修等、就業の場所や従事すべき業務が一時的に変更される際の、一時的な変更先の場所や業務は含まれません。
「変更の範囲」とは、今後の見込みも含め、その労働契約の期間中における就業場所や従事する業務の変更の範囲のことをいいます。
労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務、いわゆるテレワークを雇入れ直後から行うことが通常想定されている場合は、「雇入れ直後」の就業場所として、また、その労働契約期間中にテレワークを行うことが通常想定される場合は、「変更の範囲」として明示が必要となります。具体的には、労働者の自宅やサテライトオフィスなど、テレワークが可能な場所を明示することとなります。
【3】労働条件通知書の記載例
就業場所・業務に限定がない場合
就業場所・業務に限定がない場合は、すべての就業場所・業務を含める必要があります。
「会社の定める○○」と記載するほか、変更の範囲を一覧表として添付することも考えられますが、予見可能性の向上やトラブル防止のため、できる限り就業場所・業務の変更の範囲を明確にするとともに、労使間でコミュニケーションをとり、認識を共有することが重要です。
▼「就業場所」記載例
雇い入れ直後の就業場所 | 就業場所の変更の範囲 (改正による追加事項) |
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(雇入れ直後) 仙台営業所 | (変更の範囲) 会社の定める営業所 |
(雇入れ直後) 広島支店 | (変更の範囲) 海外( イギリス・アメリカ・韓国の3 か国) 及び 全国( 東京、大阪、神戸、広島、高知、那覇) への 配置転換あり |
(雇入れ直後) 本店及び労働者の自宅 | (変更の範囲) 本店及び全ての支店、営業所、労働者の自宅での 勤務 |
(雇入れ直後) 福岡事務所及び労働者の自宅 | (変更の範囲) 会社の定める場所( テレワークを行う場所を含む) |
▼「従事すべき業務」記載例
雇い入れ直後の従事すべき業務 | 従事すべき業務の変更の範囲 (改正による追加事項) |
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(雇入れ直後) 原料調達に関する業務 | (変更の範囲) 会社の定める業務 |
(雇入れ直後) 広告営業 | (変更の範囲) 会社内でのすべての業務 |
(雇入れ直後) 会計業務 | (変更の範囲) すべての業務へ配置転換あり |
就業場所・業務の一部に限定がある場合
就業場所や業務の変更範囲が一定の範囲に限定されている場合は、その範囲を明確に記載します。
▼「就業場所」記載例
雇い入れ直後の就業場所 | 就業場所の変更の範囲 (改正による追加事項) |
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(雇入れ直後) 十三出張所 | (変更の範囲) 淀川区内 |
(雇入れ直後) | (変更の範囲) |
(雇入れ直後) | (変更の範囲) |
(雇入れ直後) | (変更の範囲) |
▼「従事すべき業務」記載例
雇い入れ直後の就業場所 | 就業場所の変更の範囲 (改正による追加事項) |
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(雇入れ直後) | (変更の範囲) |
(雇入れ直後) | (変更の範囲) |
(雇入れ直後) | (変更の範囲) |
(雇入れ直後) | (変更の範囲) |
※いわゆる在籍出向を命じることがある場合であって、出向先での就業場所や業務が出向元の会社での限定の範囲を超える場合には、その旨を明示しなければなりません。
完全に限定(就業場所や業務の変更が想定されない場合)
雇い入れ直後の就業場所・業務から変更がない場合は、その旨を変更の範囲で明確にします。
▼「就業場所」記載例 *就業場所の変更がないことが明確であれば、どちらの記載方法でも可
雇い入れ直後の就業場所 | 就業場所の変更の範囲 (改正による追加事項) |
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(雇入れ直後) | (変更の範囲) |
(雇入れ直後) | (変更の範囲) |
▼「従事すべき業務」記載例
雇い入れ直後の従事すべき業務 | 従事すべき業務の変更の範囲 (改正による追加事項) |
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(雇入れ直後) | (変更の範囲) |
(雇入れ直後) | (変更の範囲) |
【4】実務のポイント
なお、今回の改正により、既に雇用されている労働者に対して、改めて労働条件を明示する必要はありません。
また、労働条件明示は労働契約の締結に際し行うものとなるため、契約の始期が令和6年4月1日以降であっても、令和6年3月以前に契約の締結を行う場合には、改正前のルールが適用され新たな明示ルールに基づく明示は不要となります。
令和6年4月1日以降に労働契約の締結を行う場合には、今回の改正点に留意いただき労働条件明示を行うようにしましょう。
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この記事を書いた人
平成29年入社 早稲田大学卒 大学卒業後は、ブライダル関連の上場企業でサービス業に従事。その後、エスティワークスに参画し社会保険労務士の資格を取得。丁寧な業務遂行と持ち前のトーク力で多くのお客様の信頼を得ている。