近時判例の傾向から、①明確区分性、②対価性、③差額支払実績が、固定(みなし)残業代の有効性を判断する主たる考慮要素になると考えられる。
固定(みなし)残業代とは、あらかじめ一定の残業代を固定的な手当として支給する方式をいいます。この手法は労働基準法など法律で定められたものではなく、労使間の民事的合意により効力を発するものであり、形式要件がありません。
このため実務においては過去の判例の積み重ねによりその有効性の認否が判断されてきました。 正しく運用できれば会社としては人件費の計画を立てやすくなりますし、従業員にとっても残業代が固定給になることで生計費に組み込みやすくなるというメリットがある制度ですが、不適切な運用が後を絶たず、いざ裁判となれば否認されるリスクが高い制度でもあります。
固定(みなし)残業代については、いまだに専門家の間でも議論が尽きないのですが、近時判例の傾向としては、
- 固定(みなし)残業代とそれ以外の金額が明確に区分されていること(明確区分性)
- 固定(みなし)残業代が割増賃金の対価であることが明確であること(対価性)
- 超過分については別途支払われていること(差額支払実績)
が、有効性の主たる考慮要素になると考えられています。
①の明確区分性については労働契約書、賃金規程において固定(みなし)残業代とそれ以外の金額が明確に区分して明記されていることが必要です。「含む」という表現で基本給に組み込まれている事例も散見されますが手当として分離明示している方がより明確であるといえるでしょう。
次に、②の対価性ですがこちらは、例えば時間外労働手当として何時間分の対価なのか?といったことが明確であるか否かという論点になります。時間外だろうが深夜だろうが、とにかく何でもかんでも含んでいるという取り扱いだと何の対価なのか不明瞭で、充当の順序にも疑義が生じる余地を残すため明確に定めておくべきと考えます。
最後に、③の差額支払実績についてです。固定(みなし)残業代に含まれるみなし時間を超過した部分は当然のことながら、法定割増賃金を支払う必要があります。この差額支払の運用が適当に行われている、もしくはまったく行われていない場合、そもそも固定(みなし)残業代としての効力要件を満たしていないものとされる可能性があり、全面的に否認されるケースも少なくありません。この場合は、過去分について1分単位で漏れなく未払い賃金として支給する必要があるとともに、最悪の場合は固定(みなし)残業代を残業代の基礎単価に含めて精算するよう判決が下される可能性もあります。十分に留意して正しく運用してください。
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