個々の出勤打刻と始業時刻の間に乖離があっても、直ちに労働時間になるものではない。但し、使用者の指揮命令下にあると客観的に認定できる事実がある場合は労働時間と評価され、未払い賃金の対象になる可能性がある。
始業時刻とは、労働者が使用者の指揮命令下に入り労務提供を開始する時刻のことをいいます。
これに対し、労働者が単に生活リズムのために早く出社する場合や、通勤混雑を避けるために早めに出勤する場合も少なくないことから、所定の始業時刻より前の打刻が認められる場合であっても、基本的には所定の始業時刻からの勤務があったものとして始業時刻を認定するのが相当であると考えられます。
ただし、実際に始業前から業務を行っていたと客観的に認定できる場合はこの限りではありません。過去の判例においては「労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは、その行為を所定労働時間外に行うものとされている場合でも、その行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できる。したがって、その行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労基法上の労働時間に該当する。」とされています。
具体的には、使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(例えば、着用を義務付けられた所定の服装への着替え、清掃、朝礼等)を事業場内において行った時間は、明示、黙示を問わず労働時間に該当することになります。
なお、実際に始業前に労災事故が発生し、労働基準監督署の調査に入った場合には、タイムカード、出勤簿、業務日報、自己申告記録、事業場への入退場記録、警備会社からの警備記録、開錠記録、パソコンの使用状況のログ、ファックス、メールの送信記録等のあらゆる客観的な記録に加え、他の社員からのヒアリング等により、使用者から労働することを義務付けられ、又は労働を余儀なくされていた状況の有無等を確認されることになります。
会社としては日頃から労使間で、始業時刻前の勤務ルールを明確化し、実態を把握しておく必要があるといえるでしょう。
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